お墓や埋葬についての法的基礎知識

墓地・埋葬の基礎知識

▽ はじめに
 日本では、葬りの形態として、古くから土葬が主でしたが、特に第2次大戦後以降では、大半が火葬となっています。
 超高齢社会を迎え、葬儀や墓地に関するテレビ番組や雑誌、インターネットなど、たくさんの情報も氾濫しています。それらの中には、不正確なものも結構見受けられます。たとえば、「埋葬」は、一般的には、焼骨をお墓に葬ることをいいますが、法的には、土葬を指す用語です。このように、墓地や埋葬に関わる正しい法的な知識は、一般的にあまり広まっているとは言えません。
 正確さを欠く情報に基づいて判断をしてしまうことのないよう、ここでは、地域的な風俗など普遍性のない事柄を除いて、できるだけ法令、とりわけ墓地、埋葬等に関する法律(ここでは、「墓埋法」といいます。)に即して解かりやすくご説明したいと思います。
 なお、墓埋法は人間の死体の火葬、埋葬、墓地などについて規定しているもので、愛玩動物(ペット)等に関する事項はありません。

1 墓埋法で、墓地、埋葬とは?

 埋葬や墓地などについて、墳墓法では、次のように定義しています。(墓埋法2条)
墳 墓…死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設
墓 地…墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事(市では市長、特別区では区長)の許可を受け    た区域
納骨堂…他人の委託をうけて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事(市では市長、特別区    では区長)の許可を受けた施設
火葬場…火葬を行うために、火葬場として都道府県知事(市では市長、特別区では区長)の許可を受け    た施設
火 葬…葬るために死体を焼くこと
埋 葬…死体(妊娠4箇月以上の死胎を含む。)を土中に葬ること
改 葬…①埋葬した死体を他の墳墓に移すこと、又は②埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又    は納骨堂に移すこと
 このように、墓埋法では、いわゆるお墓を墳墓といい、埋葬とは土葬(墳墓に死体を葬ること)のことを指します。また、焼骨(火葬して焼け残った骨)を墳墓に入れることを埋蔵といい、焼骨を納骨堂に入れることを収蔵といいます。

2 納骨しようとするときは?

 一般的に納骨とは、四十九日が済んでから焼骨をお墓または納骨堂に入れることをいいますが、墓埋法でいうと、時期は関係なく、焼骨を墳墓に埋蔵することまたは納骨堂に収蔵することを指すことになります。
 墳墓に焼骨を埋蔵したい場合、火葬許可証(焼骨を改葬しようとするときは改葬許可証)を墓地管理者に提出した後でなければ、焼骨を埋蔵することができません。
 また、納骨堂に焼骨を収蔵したい場合、火葬許可証(焼骨を改葬しようとするときは改葬許可証)を納骨堂管理者に提出した後でなければ、焼骨を埋蔵することができません。(いずれも墓埋法14条)
したがって、お墓又は納骨堂に納骨をしようとする場合は、埋葬許可証ではなく、火葬許可証(または改葬許可証)が必要となるわけです。

3 土葬しようとするときは?

 墓地に土葬したい場合には、埋葬許可証を墓地管理者に提出した後でなければ、埋葬できません。
 なお、墓埋法では、火葬も土葬も同等に扱われていますが、東京都、大阪府、名古屋市などは、条例で土葬を禁止していますし、条例を制定していない自治体の大半も土葬用墓地として使用する許可を出さないとする内規で禁止していて、土葬の習慣が残っているのは主に奈良県や和歌山県の一部等に限られています。
 例外としては、感染症の病原体に汚染された、またはその疑いがある場合などにも土葬は制限されます。(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第30条)。
 また、2011年の東日本大震災後にあっては、被災地では施設不足と時間経過との中で、一時的なものも含め、土葬が行われました。

4 火葬許可証・埋葬許可証とは?

埋葬許可証・火葬許可証・改葬許可証が必要です。
 墓埋法では、埋葬(すなわち土葬)や火葬、改葬の際には、市町村長(特別区の区長を含みます。以下同じ。)の許可を受けることとされています。市町村長が埋葬、火葬、改葬の許可を与えるときは、それぞれ埋葬許可証、火葬許可証、改葬許可証を交付しなければならないとされています。(墓埋法5条、8条)
 ・埋葬(土葬)の許可に際しては、埋葬許可証 が交付されます。
 ・火葬の許可に際しては、火葬許可証 が交付されます。
 ・改葬の許可に際しては、改葬許可証 が交付されます。つまり、埋葬許可と火葬許可とは、全く  別の許可となります。
 また、火葬後には、火葬を行った者が火葬許可証に定められた事項を記入し、その火葬許可証は火葬を求めた人に返却されます。
 火葬許可を受けずに火葬した場合には、墓埋法違反(罰則規定は同法21条)となるほか、刑法190条「死体遺棄・死体損壊罪」に問われる可能性もあります。
 蛇足になりますが、火葬されたあとの遺灰の中に、歯の治療や人工骨などで使われた金、銀、パラジウムなどの貴金属が残っている場合があり、これを回収することで自治体が一定の収益を得ているといわれており、これに対する非難意見もあります。
埋葬許可・火葬許可の申請は?
 埋葬または火葬の許可を受けようとする人は、次の事項を記載した申請書を市町村長に提出いたします。(墓埋法施行規則1条)
 ⅰ 死亡した人の本籍、住所、氏名(死産の場合は、父母の本籍、住所、氏名)
 ⅱ 死亡した人の性別(死産の場合は、死児の性別)
 ⅲ 死亡した人の出生年月日(死産の場合は、妊娠月数)
 ⅳ 死因(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による一定の感染症その他の別)
 ⅴ 死亡年月日(死産の場合は、分べん年月日)
 ⅵ 死亡場所(死産の場合は、分べん場所)
 ⅶ 埋葬又は火葬場所
 ⅷ 申請する人の住所、氏名及び死亡した人との続柄

5 お墓を移動しようとするときは?

①お墓の移動とは?

 お墓の移動とは、遠方のため墓参に時間がかかりすぎる、宗旨・宗派を問わない墓地にしたいなどの理由から、先祖のお墓を現在のお住まいの近くなどに引越しすることをいい、ます。墓埋法では、改葬といいます。
改葬とは?
 墓埋法でいう改葬とは、「死体を墳墓から墳墓へ移す」「焼骨を墳墓から墳墓へ移す」「焼骨を墳墓から納骨堂へ移す」「焼骨を納骨堂から納骨堂へ移す」「焼骨を納骨堂から墳墓へ移す」のいずれかになります。
 したがって、「焼骨を墳墓または納骨堂から海などに散骨する」ことは、改葬には当りません。
ⅰ埋葬した死体を焼骨にしないで、他の墳墓に移したいときは、改葬許可証が必要となります。
ⅱ埋葬した死体を焼骨にして、他の墳墓に移したいときは、改葬許可証ではなく、火葬許可証が必要となります。
 なお、改葬ではありませんが、埋葬した死体を焼骨にして、また元の墳墓に埋蔵しようとするときにも、火葬許可証が必要となります。
ⅲ墳墓にある焼骨を他の墳墓または納骨堂へ移したいとき、納骨堂にある焼骨を他の納骨堂または墳墓へ移したいときは、改葬許可証が必要となります。
③ 移転するための第一歩は?
 墓地または納骨堂(ここでは「墓地等」といいます。)から移転するには、まず、移動先となる墓地等が必要です。
 墓地等を移転したいときは、移転先となる墓地等の管理者から「権利証(永代使用許可証)」または「受入証明書」を発行してもらいます。
改葬許可は?
 改葬許可申請書は、1遺骨ごとに1枚必要です。また、改葬許可証発行に、発行手数料がかかる場合があります。
ⅰ移転元の墓地等がある市区町村役場で「改葬許可申請書」用紙を受け取り、これに必要事項を記入したうえ、その墓地等の管理者から署名・捺印を受けます。
 寺院墓地から移転するには、墓地等の管理者である寺院などに離壇を申し入れることになりますが、その場合には、離壇料が必要となる場合があります。
ⅱ署名・捺印を受けた「改葬許可申請書」と移転先の墓地等の「権利証(永代使用許諾証)」または「受入証明書」を移転元の墓地等がある市区町村役場に提出し、「改葬許可証」の交付を受けることになります。
ⅲ「改葬許可申請書」の記載事項は、次のとおりです。(墓埋法施行規則2条1項)
➊ 死亡した人の本籍、住所、氏名(死産の場合は、父母の本籍、住所、氏名)
❷ 死亡年月日(死産の場合は、分べん年月日)
❸ 埋葬又は火葬の場所
❹ 埋葬又は火葬の年月日
❺ 改葬の理由
❻ 改葬の場所
❼ 申請者する人の住所、氏名、死亡した人との続柄および墓地使用者または焼骨収蔵委託者(「墓地使用者等」といいます。)との関係
 また、次の添付書類が必要です。(墓埋法施行規則2条2項)
➊ 現に利用している墓地等の管理者の作成した埋葬若しくは埋蔵または収蔵の事実を証する書面
❷ 墓地使用者等以外の者の場合は、墓地使用者等の改葬についての承諾書またはこれに対抗することができる裁判の謄本
❸ その他市町村長が特に必要と認める書類‥‥移転先となる墓地等の管理者が発行した「権利証(永代使用許諾証)」または「受入証明書」など
 なお、無縁墳墓等(死亡した人の縁故者のない墳墓または納骨堂)に埋葬(または埋蔵、収蔵)された死体(妊娠4月以上の死胎を含みます。)または焼骨の改葬許可申請書には、以上の書類のほかに、次の書類も添付しなければなりません。
➊ 無縁墳墓等の写真と位置図
❷ 死亡した人の本籍及び氏名ならびに墓地使用者等、死亡した人の縁故者および無縁墳墓等に関する権利を有している人に対し1年以内に申し出るべき旨を、官報に掲載し、かつ、無縁墳墓等の見やすい場所に設置された立札に1年間掲示して、公告し、その期間中にその申出がなかった旨を記載した書面
❸ ❷の官報の写しおよび立札の写真
❹ その他市町村長が特に必要と認める書類
実際のお墓の移転は?
ⅰ移転元の墓地等の管理者に「改葬許可証」を提示し、出骨(=遺骨を取り出す。)を行います。   墓石から出骨をする場合には、一般的に石材業者にお願いすることが多いようです。
 なお、実際に出骨をする前に、移転元の墓地等の管理者との契約や使用規則などにより、手続き方法その他必要事項を確認しておく必要があります。
ⅱ墓石式の墓地の場合、通常は更地にして墓地管理者に返すことになりますが、常識とされていて契約には書いていない場合もあります。
 更地に戻すためには、墓石その他のものを撤去して整地するための費用及び産業廃棄物となる撤去物を処分する費用が必要となりますので、あらかじめ、複数の業者に墓石の解体・撤去の見積もりを依頼して、適当な業者を選定しておくとよいでしょう。
 また、一般的に撤去に先立ち、「閉眼法要」(魂抜き)という供養の対象からはずすための法要を行うようですので、そのための費用も必要になります。
 なお、こうした作業を業者に依頼する場合に、墓地等の管理契約などで、指定業者しか認めていない場合もあります。その場合、指定業者が1社しかないときは、なるべく値下げ交渉をしてみましょう。
ⅱ移転先の墓地等では、「改葬許可証」と「権利証(永代使用許諾証)」のほか、その墓地等所定の埋蔵(収蔵)届を提出し、納骨します。
 なお、移転先の墓地等では、永代使用料のほか、墓石にかかる費用、年間の管理料などが必要になります。
 また、納骨に関する費用のほか、納骨の際にお経をあげてもらいたい場合は、そのための費用も必要になります。さらに、新たに寺院の檀家になるときは、入檀料や年会費などが必要となることもありますので、墓地等を新たに入手しようとする際に、よく確認しておく必要があります。

6 分骨しようとするときは?

① 分骨とは?
 広義の分骨には、焼骨の一部を散骨するあるいは遺族の方の手元においておくことも含まれますが、通常、1人の故人の焼骨を2以上の墓地等に分けて納骨することを分骨といいます。
 分骨には、すでに墓地等に埋蔵(収蔵)されている焼骨の一部を他の墓地等に移す場合と、火葬の際焼骨を主たる骨壺と従たる骨壺に分ける場合とがあります。
② 墓地等から分骨しようとするときは?
 墓地等に埋蔵(収蔵)されている焼骨の一部を他の墓地等に移そうとする場合、その墓地等の管理者に、その焼骨の埋蔵(収蔵)の事実を証する書類(分骨証明書)を交付してもらいます。(墓埋法規則5条1項)
 この分骨証明書を、分骨先の墓地等の管理者に提出します。(墓埋法規則5条2項)
 実際に墓石から焼骨の一部を取り出し、別の骨壺に入れ、分骨先の墓地等に納骨する場合には、石材業者などに依頼することが多いようです。
③ 火葬場で分骨しようとするときは?
 火葬場の管理者から、焼骨の火葬の事実を証する書類(分骨証明書)を交付してもらい、それぞれの墓地等の管理者に、その分骨証明書を提出します。(墓埋法規則5条3項)
 火葬場で分骨をする場合は、分骨用の骨壷の手配、分骨証明書の発行申請などが必要です。
 火葬場管理者が発行する分骨証明書を、分骨先のそれぞれの墓地等の管理者に提出し、分骨先ごとに納骨をすることになります。
④ 分骨についての留意点
 遺骨の一部の持ち出しや焼骨の分骨行為そのものは、墓埋法上の改葬には相当しないもので、手続も定められていません。また、墓地等に納骨した焼骨の全部を取り出して、手元に置いておくことについても、同様です。
 つまり、墓埋法は、焼骨を墓地等に収めることについては規定しているけれども、焼骨を墓地等から取り出すことについては規定していませんので、例えば納骨堂に収蔵した焼骨を取り出して散骨する場合、改葬許可証も分骨証明書も必要ありません。
 この場合、その墓地等の管理者に当該事実を申告し、その墓地等の墓誌から、当該遺骨・焼骨が現存するとの記録を抹消してもらう必要があります。遺骨・焼骨が現存しない場合、墓地等の利用規約によっては、墓地等の使用権を失うとしているものあります。
 特に留意しなければならないこととして、その遺骨・焼骨の移動や分骨、取り出しという行為が、その故人に関わる祭祀に関する権利(民法897条)を侵害してはいないかという点があります。この権利を有する人以外の人が、こうしたことを実施しようとする場合には、事前に祭祀権者との調整が必要です。