1 お墓は買えますか?売れますか?
墳墓の所有権は、他の所有権とは異なり、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者(ここでは、「祭祀主宰者」といい、一般的には嫡男もしくは配偶者を指すとされています。)が承継し、慣習が明らかでない場合は、家庭裁判所が定めるとされ(民法897条)、また、遺骨は、慣習に従って祭祀主宰者に帰属するとされています。(最判平元7.18)
したがって、墳墓の所有権は、被相続人から相続人に相続されるのではなく、故人である祭祀主宰者から次の祭祀主宰者に承継されるわけで、遺産分割協議の対象にもなりません。なお、被相続人の指定に従って祭祀主宰者があるときは、その者が承継します。(民法897条1項但書)
また、墳墓は墓石と焼骨・遺骨から構成されているもので、第三者に譲り渡すことはできません。
お墓を買うということは、すなわち墳墓が存する土地、つまり墓石が建っている土地について、祭祀主宰者が永代に亘って使用する権利を得るというもので、公営や民営の霊園の使用規則等では、これを譲渡することはできない旨を定めています。
現在使用している墳墓を譲渡したい場合には、原状復帰のうえ管理者に使用権を返還することになります。この場合、焼骨・遺骨は、取り出して手元で保管するか改葬することになります。
2 お墓や納骨堂を買うこととは?
土地、建物などと同じように、相続や売買などによって、墳墓の所有権が分割されてしまうことは社会通念からみて不適切であると考えられています。
一般的に、「お墓や納骨堂を買う」などといわれますが、実際には、墓地にある特定の区画について、墓地または納骨堂の管理者に「永代使用料」を支払い、墳墓を建てて使用する権利を取得することになります。また、それに伴って、一般的には管理料支払いの負担が生じます。
加えて、墳墓の場合には、墓石代金とその加工費や設置のための基礎工事、外柵や付属品などの費用が必要になります。寺院系の墓地については、別途費用がかかる場合があります。
墳墓の所有権は、他の所有権とは異なり、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者(ここでは、「祭祀主宰者」といい、一般的には嫡男もしくは配偶者をいいます。)が承継し、慣習が明らかでない場合は、家庭裁判所が定めるものとされ(民法897条)、また、遺骨は、慣習に従って祭祀主宰者に帰属するものとされています。(最判平元7.18)
したがって、「お墓を買う」とは、不動産の所有権を買うことをいうものではなく、その使用権を得ることをいうものです。したがって、不動産取得税や固定資産税などは課税されませんし、相続財産にも該当しませんし、相続税の対象にもなりません。
3 お墓や納骨堂のいろいろ
墓地は、通常、区画化された土地に墳墓を建てて利用するものですが、都市部では人工地盤などを土地の代わりとして利用しているものもあるようです。そのほか、最近では、樹木葬の墓地もあります。
また、納骨堂は、ほとんどが非木造建物ですが、公営の墓地に隣接して設置されていたり、仏教寺院の境内に建てられているものが多いようです。納骨堂の形態ですが、現在見られるものとしては、従前からあるロッカー形式のもの、仏壇形式のもののほか、自動搬送の祭壇形式のものなどもあります。
① 公営の墓地
地方自治体が運営する公営墓地では、ほとんどの場合、利用申込みに際し、その地方自治体に居住していることや既に手元に遺骨があることなどの条件があります。
公営墓地は、経営状況も安定していて、費用も安く、立地条件も良いものが多いので、人気も非常に高く、特に都市部の公営霊園では既に満員状態で新規募集をしていなかったり、募集があっても応募者の競争率が高いということもあります。
② 宗教法人の墓地
宗教法人が主体となって運営をしている墓地・納骨堂で、利用者を公募しているものは、宗教・宗派を問わないものが多いようです。
他方、一般的に宗教法人の境内にある墓地や納骨堂については、利用に際して、それぞれ条件は異なりますが、いわゆる檀家になることを求められるものもあるようです。
③ 民営の墓地
民営墓地の運営母体はさまざまですが、一般的に、利用申込みの際の資格や条件がなく、また、宗教・宗派を問わないものが多いようです。
また、民営墓地は、区画の面積や墓石の大きさ・デザインなどをある程度自由に選択することができるものもあります
ただし、公営墓地と比較して、永代使用料や管理費などが一般的に割高となりますし、利用する石材業者なども墓地管理者指定のことが多くなります。
④ 永代供養墓
人が亡くなった場合、一般的に墳墓または納骨堂にその焼骨を埋蔵し、または収蔵しますが、これを維持管理していくためには、祭祀主宰者が累代にわたっている必要があります。
そこで、少子高齢社会を迎え、祭祀主宰者がいなくてもすむような「永代供養墓」もできています。永代供養墓は、寺院や霊園が祭祀主宰者に代り、埋蔵・収蔵場所の管理・供養を永代にわたって行うというもので、永代使用料、永代供養料、永代管理料など必要となります。
⑤ 樹木葬・散骨など
ⅰ樹木葬
樹木葬とは、墓埋法により墓地として許可された区域内の土地に植栽している樹木を墓標として、その根元などに焼骨または焼骨の入った骨壺を埋めて埋蔵するものです。
墓地の区域の一部を樹木葬のための区域としているところもあります。
樹木葬には、故人ごとに焼骨を埋蔵するものでは、埋蔵したところに植樹をするもの、メインとなる樹木の周囲に個々埋蔵するもの、樹木の根元などに焼骨を埋蔵し墓標を建てるものなどがあります。また、完全に合葬とするものもあります。
これらは、土に還るあるいは自然に還るという意味で、焼骨を直接土中に埋蔵するものが多いようですが、骨壺に入れた状態で埋蔵するところもあります。
したがって、樹木葬によった場合、改葬はできないと考えたほうが妥当でしょう。
ⅱ散骨
散骨とは、焼骨を海上などで撒くことをいい、墓地を持たず、「自然葬」の形態をとるものです。散骨は、墓地、埋葬等に関する法律(ここでは、「墓埋法」といいます。)による埋葬、埋蔵、収蔵のいずれにもあたらず、墓埋法はこれら以外の方法については特段の規制をしていません。
しかしながら、散骨については、当然に公共の福祉による制約があること、刑法190条の死体(遺骨)遺棄罪との関係もあり、厚生労働省は、散骨を規制の対象としています。また、一部の地方自治体では陸地での散骨を規制する条例を制定しています。
散骨の形態としては、故人ごとにチャーター船で行うもの、何人分か一緒のチャーター船で行うもの、代行または委託で行うものなどがあります。
ⅲ元供養
手元供養とは、墓地または納骨堂へ納骨せずに、あるいは納骨を行ったうえさらに、焼骨(あるいはその一部)を自宅等で保管しようとするもので、自宅供養ともいわれます。これも、墓埋法にいう埋葬、埋蔵、収蔵のいずれにもあたりません。
手元供養の方法は、焼骨をそのままあるいは粉骨化して自宅に置く、焼骨の一部を装身具などに入れて身に着ける、焼骨を加工するの3種に大別できます。
自宅に置くための用品としては、陶製やガラス製の骨壺、陶製、石製などのオブジェの焼骨入れなどがあり、身に着けるための用品としては、貴金属製などのロケット型ペンダント、リングなどの焼骨入れなどがあります。
焼骨を加工する方法としては、焼骨を釉薬に混ぜ合わせて陶器を焼成するもの、焼骨をダイヤモンドに焼成するものなどがあります。
このほか、手元供養用に作られた花入れ用の陶器に花を活けて供養するという「花供養」と呼ばれるものもあります。
なぜ、行政書士が、お墓について関わるのでしょうか?
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このなかで、ご自身の死後に関わるさまざまな事項についても、よくご相談をお受けしております。特に、遺言、相続に関連して、少子高齢社会、核家族、単独世帯から生ずる、故郷にあるお墓の管理、ご自分のお墓の確保、樹木葬や散骨、身寄りのないときのお墓問題など、切実な事柄が多く見受けられます。
行政書士は、これらに関わる業界や宗教団体とは利害関係がありませんので、ニュートラルな立場から、法的な知識に基づくアドバイスや対処をすることができます。