相続についての基礎知識
相続とは、相続人が被相続人(=亡くなられた方)の権利義務を承継することをいいます。相続は、被相続人の死亡により開始しますが、それに伴い様々な手続が必要となります。これを時系列的に示すと、おおよそ次のようになります。
• 相続人の確定・・・相続人が誰であるのかの確認
• 相続財産調査・・・どのような相続財産があるかの確認
• 遺言書の有無の確認・遺言書検認・・・被相続人の生前の意思の確認
• 準確定申告・・・被相続人の所得税申告
• 遺産分割協議・・・相続人の間における相続財産配分の確定
• 相続財産の名義変更
• 相続税の申告
行政書士は、これらの手続のうち、行政書士法その他の法令によって認められたもの(税務申告や不動産登記などを除く事柄)について、お伝いをさせていただくことができます。
1 法定相続人
被相続人の権利義務を承継する相続人の範囲は、民法に定められていて、これを「法定相続人」といいます。
被相続人が遺言によって別段の意思表示をしていない限り、法定相続人が相続人となります。
法定相続人は、次の表のとおりですが、それぞれ上位の者がいない場合、下位の者が相続人となります。(血族相続人)
被相続人の配偶者は、常に相続人となります。(配偶者相続人)
被相続人の子と兄弟姉妹については、相続の開始(=被相続人の死亡)以前に死亡し、または民法に定める理由により相続権を失ったときは、その子が代わって相続人となります。(代襲相続人)
相続順位 法定相続人
第1順位の血族相続人 被相続人の子※1
第2順位の血族相続人 被相続人の直系尊属(父母・祖父母等)※2
第3順位の血族相続人 被相続人の兄弟姉妹※3
配偶者相続人 被相続人の配偶者
※1 実子と養子との間、また婚姻中に生まれた子(嫡出子)とそうでない子(非嫡出子)との間に順位の区別はなく、同順位で相続人となります。(ただし、特別養子は、実方の父母の相続人とはなりません)
※2 被相続人に親等の近い者が優先します。親等の同じ者は同順位で相続人となります。
※3 複数の兄弟姉妹がいる場合、同順位で相続人となります。
2 相続人の相続分
相続人が複数いる場合、各相続人が被相続人の権利義務を承継する割合のことを「相続分」といい、相続分は民法によって次の表のように定められています。(法定相続分)
ただし、被相続人が遺言によって特に指定した相続分(指定相続分)がある場合は、これが優先されます。(指定相続分優先の原則)
兄弟姉妹を除く相続人には、相続財産の一定割合の権利が最低限留保されています。(遺留分)
相続人 | 法定相続分※1 | 遺留分の割合※2 |
---|---|---|
配偶者+子 | 配偶者 2分の1 子 2分の1 |
被相続人の財産の2分の1 |
配偶者+直系尊属 | 配偶者 3分の2 直系尊属 3分の1 |
被相続人の財産の2分の1 |
配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者 4分の3 兄弟姉妹 4分の1 |
被相続人の財産の2分の1 (兄弟姉妹には遺留分なし) |
血族相続人のみ | 全部 | 子のみ 被相続人の財産の2分の1 兄弟姉妹のみ なし 直系尊属のみ 被相続人の財産の3分の1 |
配偶者相続人のみ | 全部 | 被相続人の財産の2分の1 |
※1 子・直系尊属・兄弟姉妹が複数いる場合、法定相続分を頭割りします。
例)法定相続人が配偶者及び子3人の場合
配偶者の法定相続分=2分の1
子の法定相続分 =2分の1÷3=6分の1
ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となります。
※2 各相続人の遺留分は、「遺留分の割合×その相続人の法定相続分」の計算式で求めます。
例1)配偶者と子が相続人の場合
配偶者の遺留分=2分の1×2分の1=4分の1
子の遺留分 =2分の1×2分の1=4分の1
例2)配偶者と直系尊属が相続人の場合
配偶者の遺留分 =2分の1×3分の2=3分の1
直系尊属の遺留分=2分の1×3分の1=6分の1
行政書士に業務を依頼するメリット
行政書士に相続業務を依頼していただきますと、専門家が早い段階から相続手続に関わることにより、手続上の「交通整理」が可能となるというメリットがあります。
相続に関する手続には様々なものがありますが、時間的な制約もある中で、どの手続をどの専門家に依頼するのかを的確に判断し、それらの専門家を探してアプローチしなければならないとすれば、依頼者ご自身にも大変な苦労が必要で、お勧めできません。
行政書士は、相続手続においては主に、確定した相続人の範囲を家計図のように示す「相続関係説明図」、被相続人の相続財産を不動産・預貯金・有価証券・動産などの種別ごとにリストにして、相続人間で相続財産の分け方を協議する際の参考資料とする「相続財産目録」、相続人間で相続財産の分け方について協議・合意した内容を書面化した「遺産分割協議書」などを作成させていただきます。
これらの書類は、相続手続を進めていく上でほとんどのケースで不可欠な書類となります。
このように、相続手続の入口の「相続人の確定」から「遺産分割協議」に至るまでを幅広くカバーして、相続手続全般についてお手伝いをする専門家として、行政書士は適任であるといえるでしょう。
また、相続財産の中に不動産が含まれている場合や、相続税申告が必要な場合には、登記業務の専門家である司法書士や、税務の専門家である税理士と連携して対応いたしますので、安心してご相談ください。(司法書士・税理士に対する報酬は、行政書士の報酬とは別に必要となりますので、ご注意ください。)
相続業務のご依頼から手続き完了まで
1 相続業務のご相談・ご依頼
ご相談では、まず被相続人のご氏名、亡くなられた時のご住所・本籍、親族関係、財産の状況等、基礎的な情報についてお尋ねします。
それにより、予測される相続人の範囲や相続手続の難易など、相続手続についての概略的なアドバイスをさせていただきます。
行政書士が行うことができる相続業務の範囲とそれに対する報酬額についてもご遠慮なくお尋ね下さい。報酬額は、依頼される業務の範囲やその難易度によっても増減します。また、戸籍謄本等の書類の取り寄せに必要な費用や交通費等の実費は、報酬額には含まれません。
業務についてのご相談は原則として有料となりますが、初回のご相談は、30分無料とさせていただいております。
説明を受けていただき、依頼される業務の範囲や報酬額についてご了承いただきましたら、委任契約を締結していただくことになります。
2 業務の着手・完了・費用の精算
委任契約締結後、速やかに業務に着手いたしますが、業務に要する期間が長期にわたることが見込まれるときなどには、報酬額の一定割合を事前に申し受ける場合がございます。また、委任契約の性質上、戸籍謄本代等の実費を事前にお預かりすることもございますので、ご了承ください。
委任契約にある業務に対応する事務処理が終了した時点で、所定の報酬額のお支払いをお願いいたします。また、未精算の費用がある場合には、その精算も行わせていただきます。
相続財産の確定に関する業務
行政書士は、被相続人の出生から死亡時までの連続した戸籍を取り寄せて、相続関係説明図を作成し、相続人を確定する作業を行います。(被相続人以外の方の戸籍が必要な場合もあります。)
また、取り寄せた戸籍は、相続に伴う預貯金の解約払戻・名義変更手続や不動産の相続登記手続等の際に、相続人の範囲を証明する資料として必要になります。
相続財産の調査・確定に関する業務
次は相続の対象となる遺産(=相続財産)の確認が必要となります。
相続財産とは、死亡日において被相続人が所有していた財産をいいますが、これにはプラスの財産(積極財産)のほか、負債などのマイナスの財産(消極財産)も含まれることに注意が必要です。
行政書士は、相続人から委任をお受けして、相続人からご提供いただく情報に基づいて相続財産の調査・確定作業を行います。その結果判明した財産の種別ごとに概算の評価額を計算して、「相続財産目録」を取りまとめます。
1)不動産
被相続人名義の不動産の所在・地番を特定して、その不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、最新の権利関係を確認いたします。また、公図・地積測量図・固定資産税の評価証明書等を取得して、相続税の評価額を概算いたします。
2)預貯金・株式
被相続人名義の預貯金口座・証券口座を特定して、その金融機関等に対して残高証明書を請求し、死亡日現在の残高を確認いたします。
3)出資金・負債等
出資証書や借用書(金銭消費貸借契約書)などから相手方を特定して、その方に連絡し、死亡日現在における債権債務の状況を確認いたします。
遺言書がない場合や遺言書の記載内容が個別具体性に欠ける場合などには、被相続人の相続財産を相続人の間でどう分配するか(=遺産分割)については、必ずしも民法で定められた相続分(=法定相続分)によって分割しなければならないものではなく、相続人全員の合意の下にそれ以外の割合で分割することもできます。
また、遺産分割の方法には、「現物分割」「代償分割」「代物分割」「換価分割」「共有分割」があり、それぞれメリットとデメリットがあります。
どの方法を採るにしても、遺産の分割に関する相続人間の合意内容を「遺産分割協議書」という書面に残す必要があります。これには、書面に残すことで後日の紛争を予防するという意味合いもありますが、さらに預貯金、不動産などの相続財産の名義変更手続や相続税申告の際に、遺産分割協議書の添付を求められるからです。
行政書士は、書類作成の専門家として、「遺産分割協議書」を作成することはもちろんですが、具体的な事情の下でどのような遺産分割方法が適しているかのご提案を始め、必要に応じまして、遺産分割協議に同席し意見を述べる等の方法により、相続人間においてスムーズな合意形成ができるよう、書類作成の前段階からしっかりサポートさせていただきます。
遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書を作成した後は、それに基づいて各相続財産の名義を被相続人から相続人に変更する手続が必要となります。
具体的には、不動産の相続登記手続、預貯金の解約払戻・名義変更手続、株式の名義変更手続、自動車の相続に伴う移転登録手続等があります。
遺産分割協議に基づく相続の場合、これらの手続に共通して必要となる基礎的な書類は、①被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本 ②相続人全員の現在の戸籍謄本 ③遺産分割協議書 ④相続人全員の印鑑登録証明書 です。(遺言に基づく相続の場合はこれとは異なります。)
以上の基礎的な書類のうち、①および②については、遺産分割協議書作成までの過程で揃えますが、これらに加えて、財産の種類ごとに、それぞれ次のような書類の作成・提出が必要となります。
行政書士は、相続人から委任を受けることにより、これらの書類の作成・提出手続についても、お手伝いできる場合がありますので、お気軽にご相談ください。
A 預貯金・株式
各金融機関・証券会社に、所定の様式の相続手続関係書類を提出します。(「相続手続依頼書」「相続手続請求書」「相続届」等、書類の名称や様式は会社によって異なります。)
行政書士がお手伝いできること
これらの相続関係書類の記入に関しては、各相続人が自書・押印(実印)しなければならないのが原則です。行政書士は、金融機関等との書類の授受、書類の記入方法等についての問い合わせなどの支援を行い、手続がスムーズに終えられるようバックアップいたします。
B 不動産
不動産所在地を管轄する法務局に、不動産登記申請書(相続を原因とする所有権移転・被相続人持分全部移転等)を提出します。
行政書士がお手伝いできること
相続により権利を取得されました相続人本人が登記申請をするのが原則ですが、登記業務の専門家である司法書士に、登記申請書の作成・提出を代理してもらうこともできます。
行政書士は、法務局に提出する書類である登記申請書の作成を業務として行うことはできませんが、収集した戸籍謄本や作成した相続関係説明図・遺産分割協議書を司法書士に引き継ぐなどの協力を行い、スムーズな登記申請のために側面から支援を行います。
C 自動車
使用の本拠の所在地(一般的には、所有者の住所地が多い。)を管轄する運輸支局(又は自動車検査登録事務所)に、移転登録申請書を提出します。
行政書士がお手伝いできること
移転登録申請書に関しては、相続人から委任を受けた行政書士が、申請書の作成・提出を行うことができます。
各相続人が相続によって取得した相続財産の総額(課税価格の合計額)から基礎控除額を控除した額に対して、相続税が課税されます。
相続税申告書は、相続によって財産を取得した者が共同で作成し、被相続人の死亡当時の住所地を管轄する税務署に提出するのが原則ですが、税務の専門家である税理士に作成・提出を代理してもらうこともできます。
この相続税申告書の提出は、一般的には「相続の開始(被相続人の死亡)があったことを知った日の翌日から10か月目の日」が期限とされていますので、相続財産の規模により納税が見込まれる場合には、特に注意が必要です。(評価額に特例率を乗じて減額した結果、相続税がかからなくなるものや、税額控除をした結果、支払額が減じられるものについては、相続税の申告が必要です。)
行政書士は、税務書類の作成を業務として行うことはできませんが、収集した戸籍謄本や作成した相続財産目録・遺産分割協議書等を税理士に引き継ぐなどの協力を行い、スムーズな相続税申告のため側面から支援を行います。